だから別の


 外が、静かになり始める頃。私と泰明は、庭で花を見ていた。
 私は、良く彼を誘って庭へ出る。結界によって守られており、美しい花も咲き誇っているため、清らかな気を
感じることが出来るのだ。
「……綺麗だな」
「――はい。お師匠の気を、感じます」
 私の言葉に、泰明は穏やかな声で答えてくれた。
「……では、もっと近くに行こう」
 それが嬉しくて、彼に、そっと身体を寄せた。私の気を好ましく思ってくれるのならば、もっと傍で感じて欲し
いのだ。
「……お師匠」
 泰明は、目を見開く。少し緊張しているようだが、その瞳は真っ直ぐ私に向けられていた。
「――本当に、綺麗だ」
 しばらくその目を覗き込んでから、呟いて、彼の頬に手を伸ばした。掌でも、泰明を感じたいのだ。
 桜色の頬。出来る限り優しくなでると、泰明は、そっと瞼を閉じた。
「お師匠……」
 小さな声で、私を呼ぶ彼。少しも抵抗せず、傍にいてくれる。どうやら、こうしていることを許してくれるらし
い。
 安堵の息を吐いてから、私はもう一度、頬に伸ばした掌を動かした。
「頬も、瞳も。私の傍にいてくれるときのお前は、とても美しい。花にも、決して埋もれない」
 薄紅色に染まる頬も、想いを宿した瞳も、本当に綺麗だ。花の纏う気はもちろん澄んでいるが、私は、泰明を
愛でるときのほうが、胸が満たされていると思う。
 一瞬、彼は身じろいだ。もう解放されたいのかもしれない、と思い、動かしていた手を止める。だが、泰明は
それ以上身動きはせず、変わらずそこにいてくれた。
 彼の胸も、私の傍にいると満たされるのだろうか。
 そう思うと、愛しさが強くなった。
 まだ、彼は瞼を閉じている。だから、もっと別の体温も感じたい。
 一度深く呼吸をしてから、私は、彼と唇を重ねた。


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