でさ 夜。泰明の庵で、静かな音が知らせた。 「泰明」 既に眠りの挨拶を済ませた、師の声。泰明は驚きつつも、戸に視線を移す。 「お師匠……挨拶、しますか?」 目は逸らさずに訊く。先ほどの挨拶は、不足していたのかもしれない。 晴明がゆっくりと歩む。泰明は、待つ。 「いや。座していなさい」 「はい」 柔らかな晴明の表情に安堵しながら、泰明は頷く。 「――泰明」 言葉が聞こえた、刹那。 襟に、晴明の手が接していた。泰明は、一瞬、震える。 「お師匠」 胸の苦しさに耐えながら、呟く。師の、憂いを宿す目が映る。泰明の耳に、声はそっと響いた。 「すまない。負担か?」 晴明と、呼吸する。優しい手が止まってくれた。唇を閉じ、少し待つ。苦しみが和らぐ。言葉を、紡いだ。 「い、え。驚きましたが、傍にいます」 惑いつつも、泰明は寄る。襟の崩れに驚いたが、嫌ではない。 晴明の顔も穏やかになる。泰明は、瞼を閉じる。呼吸は少し苦しいが、嬉しさで癒される。 接する際に、正座は邪魔だろう。姿勢を変えれば、近付きやすくなる。師と寄ることを願い、泰明はあえて姿 勢を崩すことに努める。後ろに、手を突く。だが。 「――案ずるな。苦心せずとも、位置は知っている」 静かに、止められた。いつもと違う姿勢は惑いを伴う。晴明には、読まれていたらしい。 正座を無理に変えずとも、師はきっと接してくれる。泰明も、得心する。信じられるのだ。 「――はい」 静かに、頷く。晴明は微笑し、優しい手を改めて移す。 襟ではなく、腰に接する。泰明は姿勢を保つ、が。 手は、止まらない。帯に綺麗な指が近付く。 すぐに、衣は静かに崩された。 |
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