でせ


 二月十四日。包んだ。準備は済んでいる。私が、ゆっくり持つ。
「泰明」
 見えた室に、伝える。
「お師匠。います」
 少し、待つと聞こえた。彼は、すぐ知らせてくれた。
「失礼する」
 許可を得た。ゆっくり挨拶する。戸の位置は変える。ふたりで、夜に包まれよう。距離は、詰める。一歩、泰
明を傍で見られるよう踏み込んだ。
「新たな、日です」
 室は塞ぐ。そして、聞こえた。日を、悟っているのか。室は、静かだ。迷うこともなく、決めて欲しい。私
と、いる。傍で、見られるのだ。
 彼は、惑う様子で呼吸する。見える机に、美しい包みが託されている。
「優しさを、くれるのか?」
 期待、する。言葉が聞こえるよう、待つ。そして。
「――はい」
 泰明が、包みを手に取った。すぐ、渡される。
 品が、見たい。ゆっくり、指を包みで把握する。そっと、品が現れた。
 期待に、呼吸する。柔らかさの素晴らしい、ショコラクッキーだ。
 堪え切れず、口で接する。少し、待つ。安らぎ、彼を見つめた。バレンタインデーの、記念。
「褒められている、ようだ。泰明」
「はい」
 ゆっくり、美しい彼、と思う。そして。
「――ありがとう」
 椅子ごと、泰明は腕に包まれた。
「は、い」
 惑う様子だが、拒まずにいる。刹那、強めた。ほどなくして、弱く包む。
 そして、少し惜しみつつ、拘束はやめた。備えた品を、昭示する。
「包み、だ」
 そっと、見せる。
「あ……」
「見て、くれるか?」
 包みだ。驚いたような彼。拒む表情は、見えぬ。そして。
「ありがとう、ございます」
 響いた。私を安らがせる言葉。美しい指で、包みをゆっくり取る。
 泡雪のような菓子。ウ・ア・ラ・ネージュだ。少し変わっている。だが、優しさを得られる品だ。チョコレー
トソースは、添えている。
「幸せだと思ったとき、眠る場所に移ってくれ」
「――はい」
 泰明に頼む。幸せを増やせれば、寄って欲しい。ふたりの、とき。少し、表情は見える。愛らしさに、一歩
踏み込む。私の、呼吸。
 彼は頷き、唇を寄せてくれた。しばらく、待つ。眠る場所の、傍。腰を、託す。
「泰明」
 ゆっくり、呼ぶ。そして。
「癒され、ます」
 聞こえた。眠る場所で、包まれる。彼は、見える。ゆっくり、傍に移ってくれた。
 そっと、呼吸する。曇らない瞳に、伝える。
「明日は、ゆっくり過ごせる。ずっと、傍にいてくれるか?」
 距離は、不要だと思う。願いつつ、見つめる。泰明と、休みたい。
 彼は、少し黙す。表情を、堪能する。すぐ、頷きが、見える。
 幸せな唇に、礼は寄せた。そして。泰明の裾は、近い。
 室で、愛しく思う。指は、忍び込ませた。


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