巍々


 褥にいる晴明の傍。俯く泰明がいた。
 庵を訪ねてくれた彼と、並びたい。せっかく、ふたりで夜を過ごせるのだ。傍で、語らせて貰えないだろうか。
不安があるのならば、和らげてみせる。
「泰明」
 静かに呼びかけて、晴明が手を伸ばす。
 だが。
 俯くことこそやめたが、彼は身じろぎ、均衡を崩した。
 晴明も、手を止める。
「――すみません」
 身体を片腕だけで保ちながら、泰明は謝罪する。懸命に、身体を戻そうとしているらしい。思うようにならぬ
のか、苦戦しながら指をずらしている。
 見つめようとしてくれているのかもしれない。ならば嬉しいが、ふたりで過ごせるときに、彼を苦しませたく
ない。
「……無理に戻ることはない」
「お師匠……?」
 晴明は、身体を寄せる。小さく、首を傾ける泰明。晴明の言葉を不思議に思ったのか、手も止まっている。
 だが、瞳はまだ不安そうだ。まず、和らげよう。見つめながら、晴明が答えるように言葉を足す。
「――同じところで、眠るのだから」
 彼の傍で、同じ褥に身体を預けたい。泰明が、戻る必要はない。今から、身体を寄せよう。
 瞬かない、彼の瞳。晴明が映っている。驚かせて、しまったのかもしれない。不安も、消えなかったのだろう
か。
 だが。
「――はい」
 泰明は、返答してくれた。頬に、仄かな紅が浮かんでいる。
 愛らしい姿。幸せだ、と思う。
 頷いて、彼の肩に手を伸ばす晴明。
 そっと、褥に身体を預けさせたとき。
 泰明の腰に巻かれていた帯が、少し崩れた。


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