保護して


「――お帰り、泰継」
 夕刻。天狗は、庵に戻って来た彼を出迎えた。
「……天狗。今、戻った」
 泰継は一瞬驚いたようだったが、すぐに柔らかく答えてくれた。幸せを、感じる。
 彼は昨年の終わりから内裏で務めを果たしていた。元日である本日、ようやく戻って来てくれたのだ。
 傍にいて話したいが、泰継もきっと疲れているだろう。彼の疲労が取れてから、改めて会話しよう。
 だがそう決めたとき、泰継の視線に気付いた。瞬きもせず、こちらを真っ直ぐに見つめている。
「――どうした?」
 不思議に思い、天狗は尋ねる。
 彼は目は逸らさずに、口を開いた。
「……お前を、見ていたい。しばらく逢えなくて、私は寂しかった」
 泰継の瞳は、今も自分を映している。
 天狗は、息を呑んだ。
 美しい目と、真っ直ぐな想い。そのふたつを、感じたからだ。
 自分も、ずっとこうして向き合っていられたら、本当に幸せだと思う。
 だが。
 少しは目を休めたほうが良い。彼に、無理をさせたくない。
 一度深く呼吸をしてから、天狗は泰継の瞳を覗き込んだ。
「――それは嬉しいが、瞬きしないと目が痛くなるぞ。疲れているだろうし、少し瞼閉じろ」
 伝え終わったとき、静かにその頬へ手を伸ばし、ゆっくりとなでた。
 そして。両の瞼に、そっと唇を寄せた。
「――ん」
 驚いたのか、一瞬彼は身じろいだが、その場から逃げようとはしなかった。
 愛しさが、広がって行く。
 頬に伸ばしていた手を泰継の頭へと移し、今度はその髪をそっとなでた。


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