価値

 
「――そうか、お前が八葉になったのか……」
 右目の下に宿った宝珠に触れながら、天狗は泰継を見る。
「――ああ」
 泰継は、龍神の神子を守る八葉に選ばれた。身に宿った宝珠がその証だ。
(私に八葉が務まるだろうか……)
 先代の地の玄武――安倍泰明は、非常に優れた能力を持っていたと聞く。彼と同じ様に八葉としての務めを果
たせるだろうか、と、泰継は不安に思っているのだ。
「しかし……少し残念じゃな」
 沈んでいる泰継の耳に、やや悲しげな天狗の声が響いた。
「――何がだ?」
「お前と過ごす時間が短くなることが、じゃ。陰陽師の仕事も八葉の仕事もこなすんじゃ、忙しくなるだろ?」
 天狗は、泰継の頬をそっとなでた。
「天狗……」
「まあ、そんな我儘を言っても仕方ないか」
 天狗は笑顔で言いながら、泰継の頭に手を置く。
「……」
 泰継は口を噤み、俯いた。
(何故……私は天狗に触れられる度に温かさを感じるのだろう……)
 天狗とは遠い昔から共に過ごしている。泰継が三月の眠りに就く際、天狗はいつも傍にいる。以前は夢を見る
ことなどなかったが、天狗が傍にいるようになってからは、温かな夢を見るようになった。
 豪快で変わり者の、最高位の天狗。しかしそんな天狗と過ごす時間は、泰継にとって心地良いものだった。明
るい笑顔が、大きな手が、胸の内を照らすのだ。
 だが。
(――何故、天狗は私に優しく触れてくれるのだろう……泰明に遠く及ばぬこの私に、そのような価値があるの
だろうか……)
 天狗の優しさに触れる度に思っていた。自分にそれだけの価値があるのだろうか、と。
「――泰継?」
 黙って目を伏せたままの泰継に、天狗は心配そうに声をかける。
「天狗……私は――」
「泰継……どうかしたのか?」
 天狗は泰継の瞳を覗きこんだ。
「――すまない」
 何も言うことが出来ず、泰継は静かに天狗から目を逸らす。
「泰継……」
 天狗は小さな声で言うと、優しく泰継の頭をなでた。
(天狗……私は――)
 やはり天狗の手は温かい。泰継は、ゆっくりと目を閉じた。


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