かで


 午前零時。天狗は、窓から室内を見つめた。
 許される確信は持っている。邸の主を感じつつ、小さな声を発した。
「晴明」
 傍に移る足音。得てくれたらしい。片手の袋が、揺れた。
「天狗。ゆっくり休もう」
 すぐに、微笑を映せた。窓もゆっくりと開かれる。
 天狗は頷き、靴を脱ぎながら踏み込む。そっと目指すことを選び身体の上には服を纏わずに飛翔したが、隣で
過ごせる。
 綺麗な入り口を閉め、彼と向き合う。小さく呼吸してから、話した。
「ああ。品を運んだ。少し辛めに味を調整している。きっと口も飽きさせない」
 袋を見せつつ、説明する。
 今日は、二月十四日。大切な相手に気持ちを伝えるとき。共に過ごせる。先日会い、泰明や泰継が眠っている
頃、晴明の自室で喜ぶことを決めた。
 品は、胡麻を入れたチョコレート。意外な組み合わせだが、味見で質は証明出来る。
「ありがとう。私も、余分な甘さのない菓子を準備している」
 晴明は袋を持つと、傍の机に案内してくれた。
 綺麗な包みが目に映る。天狗は、そっと触れた。
「ありがとう」
「後に、食してくれ」
 頼まれる。焦って味を見る理由はない。
「ああ」
 胸に品を寄せ、天狗が頷いた刹那。
「天狗。先に、私を開いてくれないか?」
 迷いのない声が、聞こえた。天狗は目を見開く。
 だが、幸せな日に示せる。そっと、頷いた。
 机に包みをふたつ載せ、共に彼の所持する一室に移る。
 寝台は消えない。戸を閉めてから、晴明は静寂を崩さずに寄り、座った。
 天狗も、近付く。
 美しい背を、そっと準備させる。
 喜びを宿す双眸に、頷く。彼の願いを、叶えるのだ。
 晴明を包む、美しい服。まずは丁寧に接し、中を指で確認した。


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