かけて

 
 褥の中で、私は、天狗に抱きしめられた。腕は優しいが、鼓動が速くなる。閉じかけていた目を、開けた。
「泰継、身体、平気か?」
 私を、労わってくれている。私は、そっと口を開いた。
「――大丈夫だ。それよりも、すまない」
「――何故、謝る?」
 彼は、目を見開く。
「天狗は、まだ余裕があるのだろう?」
 私は、その瞳を覗き込んだ。
「――ある」
 彼は驚いたのか少し沈黙していたが、予想通り、答えてくれた。
「それに、応えられなくて……すまない」
 静かに、伝える。
 天狗には、体力がある。余裕があればもっと彼に応えられるのだろうが、今夜は、もう応えられそうにな
い。自分が、嫌なのだ。
「――謝るな。お前よりも自分を優先させるほど、腐ってはおらんつもりだ」
 だが。唇を綻ばせ、天狗は掌で私の髪をなでた。
 この温もりに、いつも私は安堵している。
「お前は……優しい。胸が満たされる。だからこそ、応じたいのだ」
 彼の言葉が胸に沁みる。だから、もっと笑って欲しいと、思うのだ。
 天狗は短い沈黙の後、唇を動かした。 「――では、お前にも余裕が出来たら教えてくれ。そのときは、言葉に甘えよう」
 髪を、静かになでられる。
「――分かった」
 早く慣れて、互いの温もりに手を伸ばす時間を少しでも長くしたい。そう思いながら、答える。
「……決して、焦るな。大切な者が傍にいれば、それだけで胸が満たされるから」
 だが。胸の内を察したかのように、彼は、穏やかに告げた。
 天狗は優しい。もう一度、思った。
「――ありがとう」
 礼を、述べた直後。
 先ほどよりも、強く抱きしめられた。


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