着替えた姿を

  九月九日、午前零時。自室の机で本を読んでいた泰継は、扉の向こうに気配を感じて顔を上げた。
「泰継、起きているか?」
 聞き慣れた声と共にドアがノックされる。
「ああ。天狗、どうした?」
 本を閉じ、棚に戻してから泰継が答えると、片手に何かの包みを持ったゆったりとした服装の天狗が部屋に入
って来た。
 一体何の包みだろう、と泰継が思うよりも早く、天狗は手に持った物を笑顔で差し出す。
「――泰継、誕生日おめでとう。プレゼントだ」
「あ……」
「日付が変わったのでな。せっかくだから、早く伝えたいと思った」
 確かに今日は泰継の誕生日だ。しかし、こんなにも早く天狗が祝いに来てくれるとは思いもしなかった。
「天狗……ありがとう」
 ゆっくりと手を伸ばし、綺麗にラッピングされたプレゼントを受け取る。
「ああ。良ければ、開けてみてくれないか?」
 優しい声で言う天狗に頷き、丁寧に包みを開いていく。胸が、高鳴っていることが分かった。
「これは……パジャマだな」
 中に入っていたのは、簡素だが手触りの良いパジャマだった。すっきりとしたそのデザインは、泰継の好みに
合致している。
「――ああ。そんなんで良かったか?もし、お前の趣味に合わないのなら――」
 不安そうに泰継の顔を覗く天狗。
「そんなことはない。天狗……嬉しい。ありがとう」
 泰継は微笑んだ。日付が変わってすぐに祝ってくれたこと。自分のためにプレゼントを選んでくれたこと。天
狗の温かな想いが、胸の中に満ちている。
「そうか、良かった。泰継……」
 天狗は微笑して、泰継の頬に触れた。身を屈め、椅子に座っている泰継にそっと唇を近づける。
「――天狗」
 天狗に応えるように、泰継はそっと瞼を閉じた。柔らかなものが唇に重なる。
 長い口付けの後、天狗は名残惜しそうに顔を離した。
「――本当はこのままベッドに運びたい気分だが……お前は学校があるからな」
 泰継の頬をなでながら天狗は言う。
「天狗……」
「――それじゃな。お休み、泰継」
 少し残念そうな表情を浮かべ、天狗は部屋から出て行った。
(天狗……)
 確かに、今からベッドに行って交われば身体に負担がかかるだろう。しかし、少しでも天狗を喜ばせたい。
 泰継は、天狗から貰ったパジャマを強く胸に抱いた。

「――天狗」
 恐る恐るリビングのドアを開ける。
「ん、泰継どうかしたのか――」
 ソファーに腰かけてくつろいでいた天狗は、泰継の姿を見て目を丸くした。
「――似合うだろうか」
 天狗が部屋から出て行った後、泰継は天狗から贈られたパジャマに着替えたのだ。頬に熱を感じ、俯きながら
天狗の答えを待つ。
「泰継……」
 天狗は立ち上がり、泰継を抱きしめた。
「――天狗?」
「とても似合っている。参った……今日は押し倒さないと決めたのに、決意が揺らぎそうだ」
「天狗……」
 顔を上げると、天狗は少し困ったように笑っていた。
「まあ、お前に無理はさせないが……もう少しだけ、こうしていても良いか?」
 耳元で、天狗は優しく囁く。
「――ああ」
 大きな手の温度をもっと感じていたい、と思いながら、泰継は答えた。


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