真似ながら 十二月二十四日。片手に鞄を提げた天狗は、隣に立つ者と目を合わせ、口を開いた。 「急にすまんな、晴明」 「いや、構わない。私もお前とゆっくり話が出来るのは嬉しいからな」 彼――晴明は柔らかな声で返答した。その唇は、綻んでいる。 聖夜である今日、天狗は彼に招かれ泰継とふたりでこの家に来た。宴を開き、楽しく過ごしたのだが、盛り上が り過ぎて少し疲労したので泰継と一緒に泊めて貰うことが決まったのだ。自分は晴明の、泰継は泰明の部屋で眠 ることになっている。 「――そうか」 天狗は、頷いた。こうして晴明と過ごせるのは、自分にとっても嬉しいことだ。 鞄をそっと床に置いてから、落ち着かせて貰おう、と、近くのベッドに腰かける。そのとき、彼の両手が自分に 向かって伸びて来た。 「ふたりきりならば、これを渡すことも出来る」 「……晴明?」 その手には、綺麗な紙に包まれた小さな箱がある。意味を理解出来ずに名を呼ぶと、彼は口を開いた。 「聖夜の贈りものだ。受け取ってくれるな?」 そう。晴明の言葉通り、今日は聖なる夜。贈りものをすることは、何もおかしくはない。 天狗は一瞬目を見開いたが、ほどなくして唇を動かした。 「――ありがとう。中を見ても良いか?」 「もちろんだ」 箱を受け取り尋ねると、晴明はすぐに承諾してくれた。 慎重に紙を外し、箱を開ける。中には、ビニール製の洒落た袋があった。袋の中には、黒い葉のようなものが 入っている。 「茶葉、か?」 袋を取り出し問いかけると、晴明は頷いた。 「茉莉花の香りがするそうだ。酒を飲んだ後に摂取すると酔いも早く醒めるらしい」 自分の身体を気遣い、彼はこれを選んでくれたようだ。それに、茉莉花の香りは非常に良いと聞いている。普 段あまり茶は嗜まないが、これは飲んでみたいと感じた。 袋を箱の中に戻し、傍らに置く。それから、床にある鞄を持ち上げ、膝に載せた。 紙に包まれた箱を取り出し、晴明に差し出す。 「――ありがとう。儂からも、お前に贈りものだ」 自分も、彼のために贈りものを用意していたのだ。ふたりだけで過ごせる今、これを受け取って欲しい。 「ありがとう。中を見ても良いか?」 「ああ」 綺麗な手が、箱に伸びて来る。天狗が答えると、晴明はゆっくりと紙を剥がし、そっと箱を開けた。 「ダーツセット、だな?」 彼に贈ったのは、ボード、矢などが一揃いになっているダーツセットだ。 天狗は頷く。そして、口を開いた。 「最近はまってな。お前もどうかと思ってそれにしてみた」 少し前、気晴らしにと思って始めてみたのだが、思いの外奥が深く、面白かった。晴明にも楽しんで欲しいと思 う。だから、これを選んだのだ。 「……ありがとう。後で遊んでみる。上達したら相手になってくれるか?」 彼は隣に腰かけ、箱を膝に載せながら穏やかな光の宿った目をこちらへ向ける。 晴明は器用だ。腕前ではすぐに抜かされてしまうかもしれない。だが。 「……もちろんだ」 大切な彼の申し出を断るはずがない。視線を横に向け、返答した。 「良かった」 安堵したのか、小さく息を吐く晴明。そのときふとあることが頭に浮かび、天狗は言った。 「――晴明」 「何だ?」 彼は問う。一度深く呼吸をしてから、告げた。 「……お前の胸を、撃ち抜いても良いか?」 矢を持つ仕種を真似ながら、質問する。 我ながらくだらないとは思うが、ダーツセットを持つ彼を見ていたら軽口が頭に浮かんだのだ。 晴明は、瞬きもせずこちらを見ている。 呆れているのだろうか、と思ったが、ほどなくして彼は唇を動かした。 「――随分とおかしなことを言うな」 「せい……」 意味を理解出来ず、名を呼ぶために口を開く。だが、それは途中で遮られた。 「――私はもう、ずっと前からお前の虜だというのに」 柔らかな、だがどこか不思議な魅力のある笑顔で、彼は言った。 一瞬、呆気に取られたが。 天狗はすぐに、そうだな、と頷いた。自分もずっと前から、この笑顔に夢中だ、と思いながら。 |
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