見たいもの

「楽しかったな、泰継」
「……そうだな」
 鞄を下に置き、椅子に腰かけて笑った天狗に、私は頷いた。
 持っていた鞄を椅子の足に立てかけ、テーブルを挟み彼と向き合う形で椅子に座る。
 先ほどまで、私と天狗は泰明たちの住む家で聖夜の宴に参加していた。食事も美味しく、皆と話すことも出来
たので、私も彼と同じようにとても楽しかったと思っている。
「そういえば、身体は冷えてないか?」
 天狗が私の目を覗き込む。彼は酒を飲んでいたので、帰りは車に乗らず外を歩いて来た。私の身体を気
遣ってくれているのだろう。だが。
「いや、大丈夫だ」
 冷気は感じたが、この身が冷え切ったわけではない。そして何より天狗と並んで歩けたことが嬉しかったので、
気にする必要はないのだ。
「それは良かった」
 私から視線を逸らすことなく、彼は唇を綻ばせた。
 その笑顔に、頬が熱くなる。
「……天狗」
「どうした?」
 私の小さな声に、彼はきちんと応えてくれた。
 椅子から立ち上がり、鞄の中にあった箱を手に取る。それから、天狗のもとへと向かった。
「これを、受け取って貰えないか?」
 箱を持った両手を、彼へと伸ばす。
 聖夜である今日のため、天狗に用意した贈りもの。宴もあったのでこれまで渡せずにいたが、ようやく言うこ
とが出来た。
 彼は、何と答えるのだろう。私は、俯いた。
「――ありがとう。開けても良いか?」
 直後に優しい声が聞こえ、声の主へと視線を向けた。天狗は、嬉しそうに笑っている。
 私は頷いた。彼に中を確かめて欲しい。気に入って貰えるだろうか。
 箱を包む紙をゆっくりと剥がし、天狗は蓋を開ける。
 中にあるのは、コーヒーカップだ。先日愛用していたものを割ってしまった彼のため、あまり飾りはないが丈夫
そうなものを選んだ。
 天狗はカップを手に取り、見つめている。
「……どうだ?」
 彼の趣味に合うだろうか、と思いながら尋ねると、天狗は立ち上がった。
「使いやすそうだな。ありがとう。大切にする」
 私の頭に掌を載せ、彼は言った。その目はとても優しく、そして真っ直ぐに私を映している。
「良かった……」
 鼓動の速度が増している。だが、天狗が喜んでくれたことが嬉しい。
 私が手を胸に置いたとき、彼は下にあった自分の鞄を開けた。
 そして小さな箱を取り出し、私に示す。
「……泰継。儂からもプレゼントだ。これを貰ってくれるか?」
 天狗が、私に問いかける。
 だが、答えは決まっていた。
「……嬉しい。ありがとう」
 私は、小さな箱を受け取った。
 彼も、私のために贈りものを用意してくれた。
 そのことに、胸が満たされて行く。
「良かった。中を確かめてくれ」
 天狗の言葉に頷き、そっと箱を開ける。
 中には、硝子製のスノーグローブがあった。球体には雪を模した粉と、雪だるまの形をした小さな人形が入っ
ている。
「……綺麗だ」
 呟いて、スノーグローブをテーブルに置く。そして傾ける。
「気に入って貰えたなら良かった」
 安堵したように言って、彼も横からスノーグローブを覗き込んだ。
 中の雪が舞う。とても幻想的だ、と思った。
「――目を奪われるな」
「……泰継、儂に見せてくれないか?」
 感想を声にしたとき、天狗に尋ねられた。
 きっと、彼もスノーグローブを見たいのだろう。
 だがそう思い天狗の方を向いた直後、彼の手が私の頬に添えられた。
 ――お前の目を。
 その言葉が聞こえたとき、天狗の唇が私のそれに重ねられた。


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