もく


「泰明。無論、晴明にも会っているぞ」
 午前零時。戸は、開かれた。嬉しさを表す天狗と、目を合わせる。
 呼吸は苦しくなる。だが、知らせてみせる。
 頬の熱を感じつつ、示す。
「ああ。準備、は、済んでいる」
 近くの包みを持ち、椅子を使うことは止めた。上手く歩めないが、去る気もない。
 微笑が、そっと私に寄る。双眸の色も分かち合える位置にいる。頬の熱を感じた刹那。
「少し、呼吸しろ」
 乱れのない声が聞こえた。胸の痛みは少し小さくなる。天狗と目を合わせ、頷いた。
 隣に、いられる。今日は二月十四日。大切な相手に気持ちを込めて接する日。隠さない。共に充分な時間を寄
せられると知り、天狗が、傍で過ごすと決めてくれた。
 師の許可する声も聞いている。今から、ゆっくりと見つめ合える場所に踏み込む。天狗の家に、招かれている
のだ。
 
 少し暗い通り。歩みは止めた。家の戸は、静かに開く。
「泰継にも、説明をしているのか?」
 戸締りも済ませ、廊下に踏み込み、訊いた。天狗と同じ家で暮らす者。眠りを妨害するつもりはないが、私を
入れることは知らせているのだろうか。
「泰明に家事を手伝って貰うと、話した。泰明、輪状のチョコレートは後で見られる。遠慮せずに眠れ」
 自室の戸を開き、天狗は微笑し手招きする。
 家事の後に、休んでいるとすれば。天狗のいる場所で過ごしている私がを見られても、支障は少ない、か。
 胸の音は強く鳴るが、室内に移る。ゆっくりと、天狗は戸を閉めた。
 傍の机に、綺麗な包みが存在している。贈りもの、らしい。視認しつつ、目指す場所に寄る。
 天狗がいる、寝台。一歩踏み込み、口を開く。
「ありがとう。抹茶で、チョコレートは調整した」
 示す品。だが、恐らく休ませることになる。
 頷く天狗。眠れるところも良く映る。促され、傍に座る。
 天狗が包みを持つ。枕の隣に、品は移された。呼吸が、更に苦しくなる。目を閉じ、繰り返す。
 手伝いはしていないが、寝台を使う状況。天狗の温度が寄って来ることを悟る。
 服も、掴まれる。拒否は、しない。
 布に接し、払う手順が幸せをくれた。


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