もう把握

 北山の庵。隣の褥に横たわる者へと視線を向け、私は小さな声で呼びかけた。
「天狗」
「どうした、晴明」
 夜は更けているが、まだ眠ってはいなかったらしい。彼は――天狗は起き上がり、こちらを見てくれた。
 彼の庵に泊まるのは、今年に入ってから初めてだ。年の変わるこの時期、陰陽師がすべきことは多数ある。私
も、昨年の終わりからずっと内裏にいた。
 仕事を無事に終え、泰明を邸まで送ってから、新年の挨拶も兼ねて私はこの庵に来たのだ。突然の訪問ではあ
ったが天狗は受け入れてくれたので、私は今彼の隣にいる。
 内裏にいる間は、ずっと天狗に触れることが出来なかった。今、私は彼を求めている。
「触れても、良いか?」
 身体を寄せて尋ねると、天狗は目を見開いた。
「――急だな」
 彼の唇が動く。私は、問いかけた。
「嫌か?」
 拒否の色が浮かんでいるかもしれないと思い、その瞳を覗き込む。だが天狗は、ほどなくして口を開いた。
「……構わん」
 彼は、穏やかに笑っている。私に応えてくれるようだ。
「――ありがとう」
 礼を述べてから、私は天狗の褥へと移動した。
 目を合わせた後、その身体に腕を伸ばし、抱き付いた。天狗も、私の頭や腰に触れてくれる。
「……晴明。やはり良いものだな、温もりを感じられるのは」
 その途中、彼の声が聞こえて来た。温もりを恋しく想っていたのは、天狗も同じだったらしい。
 私は腕に力を込め、唇を動かした。
「――天狗。今年も、私の傍にいてくれ」
 今年も昨年と同じように、彼の一番傍にいるのが私であれば良い。
 そう思ったとき、彼は腕の力を緩めた。
「……ああ。お前も、儂の傍にいてくれよ」
 掌を私の頬へと伸ばし、天狗は唇を綻ばせた。
 そしてその瞳には、確かな情熱が宿っている。
 もっと温もりを感じたいと、彼もそう願っているようだ。
「――もちろんだ」
 頷いてから、私も彼の頬に触れる。
 そっと瞼を閉じたとき、唇に微熱と柔らかさを感じた。
 まだ目は閉じているが、位置はもう把握している。
 天狗の腰へと手を伸ばし、単の帯を引く。
 そして、私が纏う単の帯も、同じように解かれた。


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