並んだ形

「――そろそろ完成だな、泰継」
 大部分を作り終えたホールのケーキを見ながら、私の隣に立つ天狗は呟いた。
「ああ」
 彼の言葉に、私も頷く。
 バレンタインデーの今日、天狗と二人でチョコレートクリームを塗った大きなデコレーションケーキを作っている
のだ。あとはホイップしたクリームを絞れば出来上がる。食べたい、と言ったのは彼だったが、完成が近付き、
私も嬉しい、という感情を抱いた。
「……泰継」
「何だ?」
 名を呼ばれ、ケーキから天狗へと視線を移す。しかし、彼は何も答えずに微笑むと、ホイップクリームの詰ま
った絞り袋を掴んだ。そのまま手を動かし、ケーキをクリームで飾り付ける。真剣な眼差しで、何かを描いてい
るようだ。
 そして。ほどなくしてケーキの上に、綺麗なハートが現れた。
「――儂の気持ち」
 描いた形を私に示しながら、天狗は柔らかな声で囁く。
「――天狗」
 このクリームが彼の想いを表している、ということなのだろうか。しかし、ハートが意味する気持ちなど、ひとつ
しか知らない。
 私の頬は、微かな熱を持っていた。
「――もし良かったら、お前の気持ちも形にしてみてくれ」
「……ああ」
 天狗に絞り袋を渡される。少し考えてから、私は手に力を込めた。彼が描いたハートの横に、クリームが落ち
る。
 天狗のように美しくは出来ないかもしれない。だが、私の想いを分かって欲しい。
 時間をかけ、可能な限り慎重に形を描く。
 ややして、彼のものより少し小さなハートが完成した。
 このような形で、天狗に伝わるのだろうか。
「――ありがとう、泰継」
 しかし、案ずる必要はなかったようだ。天狗は、優しい笑みを顔に浮かべ、私と唇を重ねてくれたから。


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