にた


 深夜。泰明は自室の椅子に座り、そっと呼吸していた。
 ほどなく、明日を迎える。予定を頭に描く。少し胸は苦しくなったが、悔やまないことを願う。きっと、踏み込
む。
 改めて認識しつつ、泰明はそっと時間を見る。零が並ぶ直前。眠るところを見つめた刹那。
「泰明、入っても良いか?」
 澱まない声が、聞こえた。傍にいて欲しい存在。晴明だ。
 泰明は、目を見開く。だが、備える。嬉しさで、胸も鳴っているから。
「お師匠。無論です」
 ゆっくりと、知らせる。晴明は、静かに戸を開いた。
「失礼する」
 師は、戸を閉め歩み始める。微笑を崩さずに、泰明の傍に移ってくれた。
 頬が、熱くなる。泰明は椅子から地に移り、少し俯く。ほどなくして晴明を見つめ、口も開いた。
「お師匠は、寛いで下さい。ご命令を聞きます」
 そっと頷き、寝台に座る師。泰明から視線を逸らさずにいてくれる。
 やがて、響いた。
「いや。今日は、隣で過ごせれば嬉しいと思う」
 泰明は驚き、少し沈黙した。
 晴明が、悟っている。胸の音は止まない。夜闇がないときに、声を発するつもりでいたから。
 静められない呼吸。だが必死に、引き出しの傍に歩む。
 震える指を伸ばし、中の品を持つ。
 師の近くに戻る。そっと呼吸し、小さく、話した。
「ありがとう、ございます。品を寄せます。円いチョコレートです」
 今日は、二月十四日。温もりをくれる相手に気持ちを寄せる日。泰明も、晴明に菓子を作り保存していた。簡
素なチョコレート。だが、薄く食しやすい円状の甘味だ。
「ありがとう。嬉しい。私も、棒付きのチョコレートを備え寄せている。泰明、落ち着いたら示させてくれ」
 晴明はそっと包みを持ち、優しく映してくれるが。
「すみません。きっと、時間を使います」
 消えないのだ。頬の熱に、声音まで変えられる。
 再度、俯いた刹那。
「謝るな。では、静まりが訪れるまで、ずっと距離を詰めても良いだろうか?」
 師の声に、視線を移した。穏やかな瞳。だが、熱は存在していると思った。
 胸が、苦しい。言葉もすぐには示せない。だが、嬉しい。
 晴明を、見られれば良い。
「は、い」
 そっと頷き、師の隣に安らいだ。
 晴明の手が、泰明の背を寝台に導く。
 目を、閉じる。だが、幸せのほうが強い。
 泰明は、小さく呼吸する。
 腰からそっと去る衣服を、意識した。


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