のに

 
 午前零時。天狗は、扉の前にいた。持っている紙袋は静かに揺れる。
「泰継、招いてくれるか?」
 閉ざされた先にいるはずの彼に、訊く。声は、すぐに返って来た。
「無論だ。話せる」
 答えを胸に刻み、天狗は安堵の息を吐く。扉に、そっと手を寄せた。
 ゆっくりと踏み込む。泰継は椅子に接していた。彼を、見つめる。
「突然、悪い。ほら」
 手は、見せる。紙袋を載せている。美しい、開かれた瞳に魅せられた。
「くれる、のか?」
 驚いたらしい表情の彼。少し、和む。天狗は、ゆっくりと知らせた。
「泰継。誕生日だ。おめでとう」
 九月九日。傍にいてくれる者が命を得た日。本当に、嬉しい。
 泰継は声を出さない。天狗がそっと目に映す。しばらく、反応を待った頃。
「天狗。あり、がとう」
 小さな声を、聞いた。天狗は静かに頷く。
「中も見てくれ」
 泰継は、承知してくれる。膝に乗せた紙袋をそっと除く。
 丁寧に保護されている品が現れる。天狗は、呟きを聞いた。
「机上で使える、のか?」
「日常を過ごしていると気付きにくい、電磁波の悪影響を齎す物質を除去してくれる」
 目は逸らさず、彼に説明する。
 光の波は、有害な物質も含んでいる。傍に備えることで身体を守れる、綺麗な形の小さなシールを選んだ。
 彼は、贈りものに手を寄せる。しばらく見つめていた。
「ずっと、使わせて貰う」
 優しい声が、響く。思わず、泰継に寄った。
 彼と、目が合う。刹那、腕を伸ばしていた。
「泰継」
 美しい身体は、包まれてくれた。突然のことに少し惑っているようで、彼は一瞬揺れる。だが。少しずつ、止
まってくれた。
「傍に、いる」
「ありがとう。眠るまでの間は、腕に守られてくれるか?」
 優しい声に、訊く。悪を防ぐ品は贈っている。だが、今は自分に守られて欲しい。
 頷きが、天狗に知らせる。
 少し、腕に力を込めた。愛しさは止まらない。彼を見つめ、更に包んだ。


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