のと 元日の夕。静かな場所に踏み込んだ。ようやく戸を見られる。しばらく、庵で過ごせていない。 年末から、陰陽師は内裏で清めの儀に参加する。美しい気を寄せるから。 今は、傍に庵が映る。きっと消耗せずに過ごせる。手を伸ばし、呼吸する。 「天狗、中に入る」 私の、場所。そっと開きつつ、話す。 「お帰り、泰継」 室内にいた彼は微笑し、声も弾ませる。目が映せる。傍に、歩んでくれた。静寂を見事に破る。 「ああ」 戸の位置は戻しつつ、聞き入る。天狗の近くで目を閉じ、頷いた。 「――悪い。うるさいか?」 案じてくれたらしい。説明のとき。瞼で瞳を塞ぐことはやめ、口を開く。 「内裏では、賑やかな声を聞くことはほぼないから嬉しい。安らぐ。戻ったことを、実感出来る」 儀は、厳かに進む。皆粛々と役目を果たす。儀が終わり自由なときに喜ぶ者はいるが、無論、一番欲しい響き を近くで得ることは出来ない。庵の安らぎを示してくれる。やっと得られた弾む声。拒む意味がない。 「ゆっくり、休め」 「ありがとう。場所を変え座る、前に」 彼は安堵したのかそっと息を吐き、促してくれた。 提案は、嬉しいが。 「何だ?」 天狗は、そっと示してくれる。願いを、囁きたい。彼に、響かせる。 「天狗の声を、近くで聞きたい」 もう少し、寄ることを許して欲しい。彼のすぐ傍で、言葉を聞きたい。 天狗は少し目を見開いてから、頷き、傍に移ってくれた。 彼と、足の爪先を合わせられる位置。少し、触れた瞬間。 「泰継。今年もよろしくな」 優しく、挨拶された。幸せを、貰える。天狗と目を合わせ、そっと、頷いた。 |
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