慮りを


「……泰明?」
 褥の中で、少しだけ身動きしたとき。私の身体を後ろから抱きしめていた天狗が、小さく声を上げた。
「――すまない。お前は、眠っていろ」
 天狗は、先ほどまでは眠っていたはずだ。起床するにもまだ早い。きっと、私が動いたことに気付いたのだろ
う。出来るだけ静かに、謝る。
「別に、お前が動いたから起きたわけではない。少し気の乱れを感じてな。腕の力、強すぎたか?」
 だが、天狗は腕の力を緩めてから、口を開いた。私は天狗を見つめられるよう、姿勢を変える。
 招待を了解し、私は昨夜、この庵に来た。そして想いを通わせた後身体を休めたのだが、疲労のためか眠りが
浅かったらしい。
「腕のせい、ではない」
 私は、返答した。腕に抱きしめられていたことは、理由ではない。
「だが、寝付けんのか?」
「私は……」
 天狗はこちらから目を逸らすことなく、問いかけた。
 確かに、何度かゆっくりと瞼を閉じたが眠れそうにはなかった。もし頷けば、天狗は恐らく私を眠らせようとし
てくれる。だが、寝付くことくらいはひとりでするべきだろう。
 問題ない、と答えるべきだろうか、と迷ったとき。
「無理するな」
 優しい声が、聞こえた。
 今の状態を、伝えるべきだろう。直感的に、思った。
「――そう、かもしれない」
 そっと、口を開いてから、天狗の目を見つめた。笑っている。
「普段とは違う時刻に目を覚ますとそうなる。泰明、もう一度横臥して、ゆっくり瞼閉じろ」
「……分かった」
 天狗に従い、横臥する。それから、静かに目を瞑った。
「――これなら、苦しくないか?」
 私の身体に、天狗はそっと抱きしめた。先ほどよりも優しい力に、安堵する。
「……大丈夫だ」
「よし。それなら、儂に身を嘱せ。多分、眠れるだろう」
 私が返答した後、天狗は告げた。
 瞼を閉じているためか、私のすぐ傍にその身体があるのだと、良く分かる。幸せだと、思った。
「……お前がそこにいるのだと、実感出来る」
 小さな声で告げたときには、もう安らかな眠気が訪れていた。もう、すぐに夢を見られるだろう。
「――それは良かった」
 嬉しそうな声が聞こえ、もう一度幸せだと思った直後。
 私は、夢を見ていた。


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