らさ 「――では、帰る。北山も、見た。天狗」 区切られたとき。済ませない。泰明を、振り返らせた。 「泰明、少し」 天狗は、踏み込む。彼のときを、得るのだ。泰明は、驚いた様子で歩みを止めている。 務めが残らない、夕刻だ。堪能する。天狗は、そっと愛らしさを覗き込む。帰途、北山に歩んでくれた。彼は、 夕刻も美しい。少し過ごせたが、止まらせよう。待って欲しいと、伝えるつもりだ。呼吸し、決める。泰明に、寄 る。だが。 思わず、止めた。天狗は移らない。美しい瞼が、見える。 「てん、ぐ。黙るのか?」 「――悪い」 耳を澄ませているようだと思ったとき、聞こえた。瞳が、見える。 「謝ることはない」 怒られなかった。天狗は、ゆっくり呼吸し、伝える。 「崩せない、表情だ。清らかさを、得られるな」 瞼で塞がれた瞳。少し、幸せを宿すように見える唇。とても美しく、清らかな表情だ。今は、消えている。魅 せられたが。 泰明は驚いた様子で、ゆっくり呼吸する。そっと、待つ。北山が、包む。 ほどなくして、聞こえた。耳に集める。言葉が、響く。 「……今、天狗の言葉は、強く、美しく響く。帰りに備え、刻む」 美しい瞼は、天狗を拒まない。説明すると、彼はゆっくり瞳を塞いだ。 言葉をより刻む。泰明は、待ってくれるのだ。帰りの言葉を伝えるとき。きっと、響く。天狗は、呼吸する。 だが。 「待っているように見えるぞ」 あまりにも、愛しかった。少し、止めたい。瞼を見せ、待つ泰明。言葉ではなく、他の挨拶を許されるよう だ。一歩、彼に踏み込む。 「天狗」 泰明は、瞳を塞ぐことを止める。だが、拒ませない。 天狗は、ゆっくり彼の唇に接し、待つことを止めさせた。 |
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