るに


 夕。天狗は、歩んだ。地が、映る。
「泰明、入るぞ」
 そっと、寄る。彼の庵だ。戸は位置を変える。先日、共に過ごすことを許可して貰えた。
「天狗。休める」
「ありがとう」
 清められている場所に踏み込む。天狗はゆっくりと呼吸した。美しさを胸に刻む。癒されるのだ。
「座れ」
 戸の位置を少し戻した。刹那、泰明に知らされる。だが、天狗は外を見る。戸の隙間で、優しい風に吹かれ
る。包まれた。
「良い風を得られるな」
 完全には戸を閉じず、天狗は呟く。少し、風を浴びたいと感じた。
「ああ……」
 自然の強さ。彼も、呟いた。風を掴むように、綺麗な手を伸ばしている。
 泰明に、魅せられた。離れたくない。天狗は、決める。
「泰明」
「戸、か」
 庵で休む際、いつもは戸を閉める。位置を戻そうと、彼は踏み込む。
 だが。
「儂も、知ってくれないか?」
 天狗は、囁いた。泰明が、止まる。すぐに、天狗は戸を閉め、美しい手を掴む。
 先ほど、手を軽く握り自然を悟った彼。今度は、近くにいる者を学んで欲しい。
 風も去った、静かな場所。泰明の手を、天狗の呼吸を刻める位置に寄せる。
 彼は、身じろぐ。天狗も手を止めた。嫌ならば、戻す。更に近くで、泰明を映したとき。
「――拒否は、しない」
 小さな声が、響いた。天狗の胸に、灯をくれる。頷き、引き寄せようとした刹那。
「天狗、早いな」
 親友の穏やかな声に、驚く。外から、聞こえた。
 嘆息し、手早く指を離す。天狗は歩んだ。戸の位置を変える。
「晴明、用か?」
「私も、挨拶をしようと思ってな。会えて、良かった」
 親友は優しく笑う。天狗も力なく、紡いだ。
「ご苦労、だな」
「お師匠。ありがとうございます」
 戸は閉めない。しばらく黙していた彼も、静かに礼をする。
「構わぬ。では後に会おう、天狗」
 晴明は、そっと背を見せる。天狗は、呟いた。
「……ああ」
 少し見て、満足したか。戸の位置は戻す。そして、泰明を見た。
「室内に、移るか?」
 訊かれた。天狗は頷き、教える。
「ふたりきりで過ごすぞ」
 晴明も、夕の食事までは来ないと思う。ふたりで、いよう。
「――うるさい」
 彼は横を向く。愛らしい頬が目に映った。天狗は、泰明の手をもう一度掴む。
 続きだ。今度は、止めない。
 驚いたように、天狗を見る彼。
 美しい指の節を、そっと天狗は唇に寄せた。


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