書に誓う

「泰明」
 入浴と着替えを済ませリビングに入った途端、泰明は晴明に抱きしめられた。
「――お師匠。どうしました?」
 突然の抱擁に頬を朱に染めながら、泰明は尋ねる。
「――九月十四日だ。誕生日、おめでとう」
 柔らかな声で晴明は囁く。確かに、壁に掛けられた時計は午前零時を示している。丁度日付が変わったところ
だった。
「お師匠……ありがとうございます」
 鼓動が速くなっていることが分かる。誕生日を迎える瞬間、晴明に抱かれていたことが嬉しかった。
「ああ……泰明、私の部屋に来てくれないか?」
 腕の力を緩め、晴明は泰明を見る。
「――はい」
 更に速くなった鼓動を感じながら、泰明は頷いた。

「――泰明、これを受け取ってもらえないか?」
 部屋に入った晴明は、机の上にあった書を泰明に手渡した。
「これは……」
 泰明は受け取った書を見つめる。かなり古いものであるようだが、きちんと保管されていたためか傷みは全く
見られない。そっと開くと、陰陽道の心得について丁寧に書かれたページが目に入った。
「――私が昔読んでいた書だ。きっと役に立つと思う」
「お師匠……ありがとうございます」
 泰明は微笑み、晴明の顔を仰ぐ。
「泰明……喜んでもらえたのなら、私も嬉しい」
 泰明の言葉に、晴明は安堵したような笑みを浮かべた。
「――お師匠」
 泰明は頬の熱を感じながら、ゆっくりと口を開く。
「どうした?」
「――努力します。貴方のお力になれるように」
 言い終えた泰明の頬には、先ほどよりもずっと朱が差していた。今はまだ未熟だが、いつかは晴明の力となれ
るような陰陽師になりたい。そのための努力は、これからも惜しまぬつもりだ。
「――泰明」
 晴明は優しく微笑みながら、泰明の頬に手を添える。刹那、二人の唇が重なった。
「――んっ!」
 予想していなかった口付けに、泰明は小さく声を上げた。晴明は唇を離し、泰明の頭をなでる。
「――すまない。お前の顔を見ていたら、気持ちが抑えられなくなった」
「お師匠……」
 口付けにより少し潤んだ泰明の瞳を晴明は見据える。
「泰明、今日は学校は休みだな」
「はい」
 晴明はちら、と窓際のベッドを見た後、また泰明の目を見つめた。
「――今宵は、私と共に過ごしてくれるか?」
 言葉の意味を理解した泰明はしばし言葉を詰まらせた。しかし、真っ直ぐに自分の目を捉える晴明を裏切るこ
となど出来ない。それに泰明もまた、晴明を求めていたのだ。
「――はい」
 思案した後、泰明は静かに頷いた。


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