鋭さを

 私は杯を口に運ぶ手を止め、満足感に息を吐いてから、隣にいる者へと視線を向けた。
「――晴明」
 隣にいた彼――天狗は、視線に気付いたのかゆっくりと口を開く。
「どうした?」
「少し、庭へ出たい。お前も来てくれないか?」
 目を合わせて訊くと、彼は唇を動かした。天狗とふたり、こうして部屋で飲むことは好きだが、風を共に感じる
のもまた良い。
「分かった」
 頷くと、彼は笑顔で立ち上がった。

「すまんな、急に」
 静かな庭へ出たとき、彼は口を開いた。
 夜は、既に深まっている。今日は夕餉に天狗を招き、食べ終えた後で部屋に行き飲んでいたのだが、随分と長
く彼の隣にいたようだ。
「構わない。だが、どうした?」
 天狗に視線を向け、尋ねる。この庭へ来た理由を、出来れば教えて欲しいのだ。
 彼の唇が、綻ぶ。そして、ほどなくして答えてくれた。
「――少し、酔いを醒ましておきたくてな」
 天狗は小さく息を吐く。どうやら酒が回り、体温が普段よりも高くなっているらしい。
 だが、疑問があった。私は瞳を逸らさずに、呟く。
「……この後、また熱くなると思うが」
 互いの温もりを感じれば、当然熱は高まる。酔いを醒ますことなど、無意味ではないだろうか。それとも天狗
は、もう、帰ってしまうつもりなのだろうか。
 不安が過ぎる。だがそのとき、彼の唇が動き始めた。
「それはもちろん分かっている。だが……酔っていると、お前を上手く感じられないのでな」
 穏やかな笑顔。だがその声に、どこか熱があるような気がした。
 その言葉通り、酒には身体を熱くする効果はあるが、あまりに酔いが回ると知覚も鈍くなる。大切な者と温も
りを分かち合うのならば、確かに体温は少し下げておいたほうが良い。
 彼はより近くに私を感じたくて、酔いを醒まそうとしてくれたらしい。
「――そう、だな」
 私は、酒に強い。だから、いつでも構わない。
 そう思いながら頷き、隣にある手を強く握った。


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