保つ挨拶


 晴明は、正座している泰明を見つめた。すぐ前にいる彼は、自分から目を逸らさずにいてくれる。
「泰明、ゆっくり休みなさい」
 その美しい瞳を覗き込みながら、晴明は告げた。
 もう、外から聞こえる音も随分小さくなっている。皆、眠りに就く時刻だ。
「はい、ありがとうございます。お師匠も、ゆっくりお休みください」
 彼は、深く頭を下げた。
 泰明は、いつも努力している。だから、充分に休息するべきだ。部屋で、疲労を回復させるべきだとは思
う。
 だが、その前に。
 座った姿勢は変えずに膝をずらし、彼に近付く。
「――泰明」
 一度深く息を吐いて気を鎮めてから、小さな声で、名前を呼ぶ。
 そして、彼と目が合ったとき、静かに唇を重ねた。
「……お師匠?」
「お前の記憶が伝わって来た。今日も神子殿に答え、呼びかけ……そして、彼女を守るために努力したのだな」
 解放したとき、彼は驚いたように目を見開いた。答えるように、晴明は告げる。
 気を高めているとき、晴明は物体、身体のどこかに密着することで、その記憶や思念を読むことが出来る。決
して多言ではないが、泰明が神子を守るために口を開いたことが伝わって来た。こうして、今日の彼を認めた
かったのだ。
「……ありがとうございます」
 彼は目を伏せ、小さな声で礼を述べた。薄紅が、頬に浮かんでいる。
 その色に見惚れながら、そっと頭をなでた。
 今日も彼女を守り通した泰明。安らかな眠りが訪れ、良い夢を見られるように。願いを込め、手を動かした。


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