楽しみと確信


 朝の訪れを感じ、私は瞼を開けた。
「ん……」
 一度目を閉じてから、再度見開く。そして、すぐ傍にいる者に強く抱き付いた。
「――晴明?起きているのか?」
 ほどなくして、私と向き合う形で眠っていた者――天狗の声が、聞こえて来た。
 抱き付く腕に、私はそっと力を込める。
 昨夜、彼はこの邸に泊まった。声をかけてみたところ、天狗はすぐに承知してくれたのだ。共に酒を飲んだ
後、互いの存在を確かめ、並んで褥に入った。
 起き上がろうか、と思い、身体を動かす。
 だが、ふとくだらないことが頭に浮かんだので、唇を動かした。
「――眠っている」
「……起きているだろう」
 予想通り、呆れたような彼の声が聞こえて来た。
 それに構わず、もう一度口を開く。
「天狗、起こしてくれ。出来るだけ楽しく目を覚ましたい」
 せっかくふたりで迎えた朝だ。起きるときも、良い気分になりたい。
 彼は応えてくれるだろうか、と思ったとき。
「……ほら、起きろ、晴明」
 耳介に、柔らかいものが当てられた。声が、すぐ傍で聞こえる。唇を寄せてくれたようだ。
 これは、嬉しい。だが。
「もう少し工夫してくれ」
 少し、欲が出た。天狗ならばきっと、私を更に喜ばせてくれるだろう。
 期待しながら待っていると、腰の当たりに温もりを感じた。
「起きろ、晴明」
 身体を、強く揺さぶられた。
 激しい動きだが、嫌だとは思わない。だが。
「もう少し優しく頼む」
 無理に起き上がれば眠気が残るかもしれない。どうせならば、優しく起こして欲しい。
 そう、思ったとき。
「――これで、どうだ?」
 今度は耳介ではなく、唇に柔らかさと温もりを感じた。
 唇を、重ねてくれたらしい。
 胸が、満たされて行く。だが。
「……もう少し、楽しみが欲しい」
 もう一度、欲を出してみた。彼ならば、きっと応えてくれると、確信があったから。
「……目を開けたら、何度でもお前を味わってやる。だから、起きろ」
「――それは嬉しいな。お早う、天狗」
 予想していた通り、優しい声が聞こえ、私は瞼を開けて起き上がった。
 そして。彼の唇に、自分のそれを重ねた。


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