たし


「――泰明」
 夜の庵。小さく、傍に話した。彼は、少し不安そうだ。晴明は、そっと見つめる。
「不備、でしょうか。お師匠」
 首を、横に振る。そして、見つめた。
「ゆっくり、呼吸しなさい。眠れる時刻は、力も込めずに対面しよう」
 夜、泰明は必ず庵で対面しようと膝を揃える。幸せだ。彼は、そっと話す。呼吸も、耳を邪魔しないほど小さ
く、少し苦しいと思うのだ。ゆっくり、挨拶して休みを与えようと思う。
「……お師匠。すみません」
「謝るな。安らいでくれたら嬉しく思うのだ」
 俯く泰明に、そっと話す。怒るようなことではない。彼と、少し休むことを願うのだ。
 泰明は、ゆっくり晴明を見る。そして、他の場所が目に飛び込まぬよう晴明も注意した。
 言葉を、促す。そして。
「力は消せずに過ごしても、お師匠の傍に寄れます」
 彼の手は、膝を掴むようだ。表情も、務めが命じられたようで、眠る際とは違う。
 ゆっくり、泰明と並ぶ。もっと、崩れたところも見せて欲しいが。
 瞳は美しく、魅せられる。そして、微笑みも目に映せた。呼吸は、少し耳をくすぐる。
 泰明は恐らく、敬いも安らぎも宿してくれるのだろう。純粋な、彼らしい。表情はあまり安らがずとも、ゆっ
くり頷いてくれる。
 だが。少し、泰明の胸を、安らぎで埋めよう。
 ゆっくり、膝を寄せた。
「では、安らぎを得て欲しい」
 驚かせたと思う。目は、晴明に訴える。だが、惑っても位置は移さなかった。
 静かに、指を見せる。美しい瞳が、許してくれたらしい。指を、髪に包ませる。
 そして。ゆっくり、彼の唇は休ませた。


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