天候と文句

 褥の上に座り、天狗は屋外を見ていた。壁はあるが視界を遮られることはない。外が気になるとき、千里を見
渡せるこの瞳は便利だ。
 外の空気は重く、湿っている。これから天候は悪化するようだ。
「……あまり天気が良くないようだな。雨が降るかもしれん」
 視線を逸らさずに呟く。すると、すぐ隣にいた者がその言葉に反応した。
「雨は嫌いなのか?」
 外を眺めるのをやめ、天狗は声の主――泰明を見る。
 今日、彼はこの庵へ泊まりに来ている。少し強引に誘ってしまったが、拒むことなく自分のもとへと来てくれたの
だ。泰明も自分と同じく、褥に入る準備は既に終えている。
 彼に近付き、天狗は先ほどの質問に答えようと口を開いた。
「嫌いというほどではないが、外にもあまり出られんし何となく気分が乗らん」
「そうか……」
 大地を潤してくれる雫を嫌だとは思わない。だが空を飛べば翼が濡れてしまうし、暗い雲を見ると少しだが沈ん
だ気持ちになる。
 そう思いながら言うと、泰明は視線を外へ移した。彼も、天候を感じ取っているのだろう。
「お前はそうではないのか?」
 その横顔に問いかける。彼は、雨が降っても普段と変わらないのだろうか。
 泰明はこちらに向き直ると、思案顔で口を閉ざした。黙想しているようだが、何と答えるのだろう。
 しばらくして、彼の唇はゆっくりと動き出した。
「……天候に気分を左右されることはない。それに……どのような天候でも、お前と過ごしているときは、嬉し
い」
 言葉の最後に泰明は俯いた。その頬は、仄かに色付いている。
 予想していなかった返答に天狗は息を呑んだ。
 晴れた日でも雨の日でも、自分と過ごしているときは嬉しいと、彼は告げている。
 そして、それは自分も変わらないのだと気付いた。天候が悪く外に出ることが難しくても、彼がいてくれるだけで
とても幸せな気持ちになる。
「――泰明」
 名前を呼ぶと、返事をしようとしたのか泰明の口が開いた。
 そこを狙い、唇を重ねる。愛しさを込めて。
「……っ、何だ」
 その感触を充分に堪能してから解放すると、彼はこちらを睨んだ。息も乱れている。だが、頬の色は先ほどよ
りも濃くなっていた。
 あのようなことを言われ、今のように愛らしい反応を示されては、もう抑えることは出来ない。
「そこまで言うなら、文句はもう聞かないぞ」
 目を合わせ、彼に告げる。今は拒まれても、聞けそうにはないのだが。
 泰明は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに頷いた。
 天狗は彼の帯へと手を伸ばす。そして指を絡ませると、素早くそれを解いた。


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