とま


 そっと、除した。天狗を、休めよう。
「う……」
 私の傍から、聞こえる。字も、悟る。そして、伝える。
「天狗、度も無視するな」
 十二月二十四日。今日は、お師匠の案により祝宴が準備された。天狗はずっと美酒を口に寄せ、少し酔ったら
しい。
 度数も強かった。美酒は取り、天狗の傍には寄せない。体調は崩さぬよう祝せ、と思う。だが、胸は痛む。
 今日は祭日だ。天狗の体調も優れるほうが祝える、と思う。
「少し、冷やし酔いを醒ます。泰明と、だ」
 掴まれる。隣から、聞こえる。少し苦しさが薄れたらしい。私を見る。他の場所で休むことが、必要だと訴え
る。
「――分かった。お師匠」
「待とう。ゆっくり過ごしなさい」
 天狗の肩に指を寄せ、師と話す。泰継も頷いた。
「ありがとうございます」
 許しを得られた。一礼する。天狗は鞄を忘れずに、椅子から離れる。風の吹く場所に移ろうと、歩んだ。

 
「――天狗」
 そっと、話す。
「怒っているか?」
 目には、天狗が映る。体調の崩れが全く見えない。
「不思議だと思う。移る理由はないように映る」
 酔ったとは思えぬが、場所を変えることは意識しているのか。
 天狗は風と並び治癒せず、私の使う室に移った。意図が、読めぬ。
「ふたりで休めるから、嬉しく思う。不服か?」
 微笑まれた。少し、呆れる。だが。
 机の傍に移り、箱を取った。
「いや。渡せる、から。見ろ」
 天狗に、渡す。祭日だから。見てくれると、嬉しい。
「……ありがとう」
 驚いたようだ。手は、ゆっくり移る。だが、笑ってくれている。
 箱も、そっと包まれた。手が、ゆっくり品を探す。
 薄い、掃除用の雑貨。複数のスポンジワイプだ。
「嫌か?」
 見つめる。日常の掃除が少し嬉しく思えれば、笑ってくれると推測した。もし不要だとすれば、拒んで、欲し
い。
「洒落ておるな。ありがとう。ほら、儂のだ」
 天狗の微笑みは消えない。鞄に包まれていた箱を、携える。
 くれる、のか。
「……ありがとう」
「見てくれ」
 そっと指で角を探ると、優しく請われた。
 頷き、ゆっくり包みはどかす。
 そして、不思議な板を、見た。
「板の、ようだ」
 呟く。そして、説明された。
「誤りではない。曲がるぞ。主に、皿だ」
 改めて、見る。そして、少し力も込め掴んだ。
 不思議な皿が、現れる。驚いたが、様々な表情が見られそうだ。ずっと、使える。ゆっくり、話す。
「――変えられる。ありがとう」
 嬉しさに、皿を強く包む。
 少し、曲がったとき。
「戻る刻も訪れる。今、だな」
 言葉が、聞こえた。居室に戻る刻、と頷く。だが、すぐには戻れなかった。
 傍で、見つめられる。驚いた。胸が、少し苦しい。だが、拒めない。そして。
 唇を、そっと包まれた。


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