とた


「……泰継」
 胸も、埋まったとき。私を、呼ぶ主がいた。
 言葉に、休止する。意識が、戻される。そして、ゆっくり話した。
「天狗。挨拶せず、過ごした。寂しくしているようだ。すまない」
 夕刻。北山に戻り、そっと美しさを胸に刻んでいた。彼に寄ることなく。夜が、見え始めている。寂しそうな
表情に、謝罪した。
「泰継がゆっくり過ごせれば、儂の胸も埋まる。俯くな」
 微笑、される。天狗は、咎めない。優しく目に映してくれる。北山の美しさは素晴らしいが、彼の微笑み
も、胸に響く。
「――ありがとう」
 天狗を、見つめる。瞳は、穏やかだ。そして、頷きが見える。許された。安らぐ。
「そっと、呼吸しろ」
「分かった」
 ゆっくり諭され、従う。身体を寄せ、呼吸した。より、周囲も美しく映る。彼の傍に、安らぎは見られる。
 そして。
「……泰継」
 幸せに呼吸したとき、聞こえた。呼吸は少し止め、天狗を、見よう。瞳は塞がずに、拒まず、映す。
 唇が、見えた。思わず、身じろぐ。彼を、見つめた。
「天狗」
 胸は、壊れそうだ。負けぬよう、呟く。聞いて、くれるだろうか。美しい唇を、目に映す。
「悪い。邪魔だな。泰継は、美しいから」
 天狗は俯く。私の目に、唇が見えない。だが、拒むつもりはない。賛美も、嬉しいのだ。
 静かに、伝える。
「――止まらないでくれ。許可、する」
 離れず、安らがせてくれたら、幸せだ。止めないで、胸を埋めてくれないだろうか。
 表情は、少し変化する。驚いたようで、嬉しさは見られず、俯く。だが。
 すぐ、優しく笑ってくれた。そして。
 更に、安らぎが訪れた。


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