つい


 夕刻。泰明は、庵のすぐ傍で足を止めた。戸を、見る。
「お師匠、戻りました」
 静かに、呼びかける。すぐに、穏やかな挨拶が聞こえた。
「お帰り、泰明。他のところに寄ったか?」
 普段よりも少し帰りが遅くなったので、師は問いかけているのだろう。
 晴明を見つめるために、泰明は戸に手を伸ばす。
「はい。少し結界を強めました」
 足を踏み込んで泰明は返答する。そして、戸の位置を戻した。
 師は、穏やかに笑っている。
「――ありがとう」
 柔らかな口調。胸が壊れそうなほどに、嬉しかった。
 一度うつむいて、深く呼吸をする。
「私の、務めです。強めた地ですが――」
「……泰明」
 清めた地について報告しようと思ったが、止められた。師が、急に自分の傍へ移ったのだ。
 泰明が、驚いて見つめたとき。
 晴明の手が、自分の頭へと伸ばされた。
「――お師匠?」
 傍にいてくれることは、嬉しい。だが、急なことで、不思議だった。報告をされたくない理由でもあるのだろ
うか。
 思考を巡らせる泰明。だが、晴明はそっと教えてくれた。
「……遮って、すまない。だが、努力したことを褒めたかったのだ」
 優しい、瞳。本当に、自分のことを評価してくれているらしい。
 疑問ではなく、嬉しさが勝る。
「……今、報告しなければいけないことは、ありません」
 泰明は、静かに言葉を足す。今は雑音のないところで、幸せなときを過ごしたいのだ。
「――泰明」
 晴明の手は、安堵をくれる。
 泰明は、そっと瞳を瞼で塞いだ。


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