つめ


「――泰明」
 夜。天狗は、ゆっくり呼んだ。
「言葉、か?天狗」
 聞こえる。惑った様子で、言葉も弱い。天狗は、彼に頷く。
 泰明と、分かつ。褥に、守られる彼だ。泰明は、いる。美しさを、帰さない。元日の夜は、ふたりで過ごせ
る。そっと、呼吸する。
 帝に謁し、務める。年の瀬、彼はずっと準備していた。新しき日を、呼び込む。元日の夕刻、ようやく邸に
移った。陰陽師は、務める。
 ゆっくり、言葉を探す。泰明は、拒まずにいてくれた。幸せが、包む。帰宅し、すぐ北山を描いてくれたこと
も嬉しい。
 呼吸してから、伝える。晴明にも、許可されたらしい。
「挨拶だ。今年は、更に傍で過ごす。よろしくな」
 少し、響く。夕刻から傍にいる。料理も、作った。素晴らしいときだが、ひとつ埋めよう。北山で、新しき日
を褒めなかった。今、見よう。そして、変わらず傍で包むと表明する。
 微笑みの言葉だ。聞かせて、欲しい。ゆっくり、待つ。
 彼は、黙している。瞬きせず、天狗の傍を見る。そして、呼吸が聞こえた。
 注意、する。呆れているだろうか、と思ったとき。
「……伝える時期を、誤っている。分かった」
 映る、頷き。惑う様子は見せつつ、優しい言葉を聞かせてくれた。
 見惚れる。寂しさが、埋められる。幸せな、頷きだ。天狗も、頷いた。更に、寄る。
 泰明を、癒すつもりだ。彼の腰を、包む。泰明は、少し苦しそうだ。手を止め、見つめる。腰は、少し捻られ
る。だが、移らずいてくれた。
 布を、見る。頬の愛らしさが、映る。指を、寄せる。そして。
 腰の布は、ゆっくり、取れるよう努めた。


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