包み込む力

「天狗」
「ん、どうした泰継?」
 私の隣に立ち、空を見上げていた天狗を呼ぶ。その顔が、私に向けられた。
「――お前は、ここを守っているのだろう?」
 彼の顔を見ながら、私は尋ねた。
 今日は、普段よりも少し早く北山に戻ることが出来た。そのため天狗の提案で、庵の外で共に過ごすことにな
ったのだ。
 こうして陽光を浴びていると、清浄な気が体内に流れ込む。この地は天狗たちによって守られているため、他
の場所とは異なるのだ。
「まあ、そう言われることもある。北山には儂を含む天狗の力が満ちているから、守護していることは間違いな
いだろう」
 天狗は眩しそうに手をかざし、日を仰いだ。
「――確かに、ここは神聖な場所だ」
 天狗族は妖として恐れられることもあるが、山の神として崇める者も多い。ここは神の暮らす地と言っても過
言ではないだろう。
「そうだな」
「……しかし、お前が守っているのは北山だけではないと思う」
 彼が温かく包んでいるのは、この地だけではない。
「そうか?」
「――ああ。天狗は……私のことも、守ってくれている」
 天狗の双眸を見つめ、私は告げた。
 彼は、この胸に温もりを与えてくれる存在なのだ。
「――そう、なのか?」
「――そうだ。大切な者の傍にいると心が照らされるのだと、お前が教えてくれた。こうしているだけで、私はと
ても落ち着くのだ」
 少し驚いたような声で訊く天狗に、私は言った。こうして抱いている想いも、共に在る喜びも、全て彼が教えて
くれた。天狗がいてくれるから、私は幸せを感じられるのだ。まだ力不足かもしれないが、私も彼の心を守りた
いと思う。
「――なら、こうすると、もっと落ち着くか?」
 天狗は僅かな沈黙の後、笑顔で両腕を伸ばし、私の身体を抱きしめた。
 伝わって来る体温が、彼との間に隔たりなどないということを知らせる。
「…………安堵はする。だが――鼓動が速くなる」
 頬に熱を感じながら、私は目を閉じた。


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