つよ


 そっと、足も揃えた。天狗は傍に添う者を見つつ、聞かせる。
「泰明、少し止まれ」
 一日の務めを、計らった。時刻は少し夜に染まる頃。そっと呼吸すれば疲れず歩ける。
「理由を話せ、天狗」
 訝しそうな彼。ゆっくりと、泰明に話した。
「傍が嬉しい。拒むか?」
 呼吸の棘は消えずとも、北山に足を寄せる。帰宅し、少し休むことより彼は山を優先してくれるのだ。
 揶揄するような口調は、泰明に少し怒られる。承知してはいる。だが、愛らしく思うとつい睨まれたく、止めら
れないのだ。
 彼は、口を天狗の目に映させず、小さく呼吸する。帰宅を止めた天狗に、呆れているのだろう。言葉を聞けな
い。
 謝ることが必要だろう、表情を晴らそう。俯く泰明は、表情を曇らせる。
 謝ろうと、思ったとき。
「……いや」
 小さな言葉が、聞こえた。
 傍にいる天狗を、拒否しないようだ。嬉しい。そして。
「拒んでおるのか?」
 わざと、尋ねる。嫌、とも聞こえるから。少し染まった頬は、囁くようだと思う。だが、教えて欲しい。
「読み取れ」
 叱られても、止めない。
「聞かせろ」
「――嫌、とは思わぬ。表情を目に映せ。拒否は、不要だ」
 睨むような表情だが、愛らしさも消えない。
 傍にいることを、少しは嬉しく思ってくれるのだろう。一歩、身体を寄せる。夜までには、戻す。彼に、休みを
与えよう。しばらくは、許して欲しい。
「――分かった。少し、散歩するぞ」
 泰明の肩に、手を添える。北山の周囲を見よう。彼は、驚いたように思える。引こうかと、迷う。だが、抵抗
は、ない。
 そっと、並ぶ。幸せを、見たように思う。ゆっくりと、歩いた。


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