休みは


「泰明、少し話せるか?」
 師に訊かれ、扉に伸ばしかけた手を、私は止めた。
 少し驚いたので、深い呼吸を繰り返す。
「……はい」
 そして、ゆっくりと頷いた。
「ありがとう。失礼する」
 手提げバッグを持ったお師匠が、すぐ傍に身体を寄せる。
 逢おうと決めてすぐ、師は訪ねてくださった。驚いたが、嬉しい。
 扉の位置を静かに戻している人に、呼びかけた。
「――お師匠」
「――泰明?」
 瞬きもせず、私を見つめる師。
 深い呼吸を繰り返してから、傍の机に手を伸ばす。紙で保護された箱を、見せたいのだ。
「……贈らせて、いただけないでしょうか」
 お師匠に、問いかけた。
 聖夜。師に贈りたくて、選んだ。泰継たちのいた祝宴も、大切なときだったと思う。だが、師とふたりで過ごせ
るときに、贈りたかったのだ。
「――ありがとう。確かめさせてくれるか?」
 少し驚かせてしまったようにも見えたが、すぐに笑って、師は、そっと箱を手に取った。
「――はい」
 ゆっくりと、頷く。
 綺麗な手が、箱を解く。小さなテーブルが、師の目に映っているようだ。
 膝に置ける小さなテーブル。腰かけるところがあれば、すぐに作業を始められる。読書などにも使えそうだと
思い、選んだ。
「……ありがとう。大切にする。仕事もはかどるな」
 師は近くのベッドに腰かけ、テーブルをすぐ膝に置いた。唇が、綻んでいる。
「――ありがとう、ございます」
 笑顔に安堵し、そっと息を吐いたとき。
「――私の、番だな」
 師の言葉が、聞こえた。
 提げていたバッグに、手を伸ばすお師匠。すぐ、小さな箱が現れた。
 優しい笑顔で、私を見る師。
 私に、ということなのだろうか。
「――ありがとう、ございます」
「確かめて、くれるか?」
 礼をしてから手を伸ばすと、促された。
「はい」
 静かに、箱を解く。
 封印具、留め金、チェーン。部屋を施錠するためと、思われる。
「――ひとりで思考を巡らせたいときもあるだろう。今日は時間も遅いのでやめるが、明日にでもかけよう」
 余分な飾りのない封印具を好ましく思っていると、師が、言葉をかけてくださった。
「……ありがとうございます」
 ゆっくりと、礼をする。
 師は施錠がなくとも、部屋にいる私に構わず扉に手を伸ばすことはない。だが、ゆっくりと思考する場を作れ
ることは、嬉しかった。
 指を、鍵に伸ばしたとき。
「――ふたりで静かに過ごしたいときに、使うのも一興か」
 言葉が、聞こえた。師は、共に過ごせる際、ふたりで扉に施錠することを想定しているのだろうか。
 胸が、幸せで壊れそうになる。だが。
 ひとりの際よりも、共にいられるときに使ったほうが、幸せだろうと思った。
 誰にも邪魔されないよう呪いをかけ、共にゆっくりと見つめる、ということなのだから。
「過ごせるときは……使わせていただきます」
 師に頷いてから、隣に腰かける。
 そして。
 笑顔のお師匠に、そっと抱きしめられた。


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