休むより


「泰明、ゆっくり眠らせてやろう」
 天狗の言葉を、不思議に思った。泰明は、問いかける。
「急に、何だ」
 既に支度は済んでいるが、眠るだけならばひとりでも可能だ。
 意味を推測していると、天狗は泰明の傍に身体を寄せた。
「――少しくらい疲れたほうがすぐ眠れるだろうと思ってな」
 泰明の身体は、褥に横たえられる。
「天狗っ……」
 胸が、壊れそうだった。軽く抵抗するため、自分を見つめる天狗に、泰明は手を伸ばす。
 庵に招かれたことも、ふたりで夜を過ごせることも嬉しい。だが、呼吸を静めたい。
 必死に深く呼吸していると、天狗の言葉が聞こえた。
「――いつも、お前は努力しているからな。十分に、疲れているか」
 髪に、手を伸ばされる。天狗の目は、優しい。疲れさせることをやめるつもりなのだろうか。
 泰明の胸が、痛む。やめさせようと思っているのではない。少し、待って欲しいのだ。
 黙っていれば、きっと天狗も分からない。教えなければ。
 もう一度、深く呼吸する。そして泰明は、ゆっくり話しかけた。
「……もう少し、疲労すれば、より安らかな夢を見られるのだろう」
 確かに今も疲労はある。だが、傍に天狗がいることを嫌だと思うはずがない。より安らかな夢を与えてくれる
ことを、知っているから。
 天狗は驚いたのか、瞬きもせずに泰明を見つめる。
 そして。
「……可愛いな」
 笑った。そして。
 泰明の腰へと手を伸ばし、単の帯に指をかける。
 泰明は、思わず瞳を瞼で塞いだ。


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