予測と落ち着き


 穏やかな、夜だった。晴明は、横にいる者へと視線を向ける。
「――泰明。星は、美しいな」
 安堵したように息を吐いてから、隣にいた彼は頷いた。
「……はい」
 今宵は星の動きを読むため、晴明は泰明とふたりで邸の庭へと出た。星は都を守るように優しく光ってい
る。しばらく、都の気が乱れることはなさそうだ。
「きっと、お前が努力しているからだろう」
「――ありがとうございます」
 その瞳を覗き込みながら、晴明は告げる。彼は、深く頭を下げた。
 泰明は、優れた陰陽師だ。そして今、彼は八葉としてもその力を振るっている。自分も努力はしているが、泰
明には敵わぬだろう。
 いつも、真っ直ぐな目をしている彼。傍にいると、胸が満たされる。
 晴明は、そっと唇を動かした。
「しばらくは穏やかに過ごせるだろう。だが――星の動きが乱れたとしても、私は、あまり不安を感じないと思
うのだ」
 泰明はこちらに視線を向ける。そして、口を開いた。
「お師匠は、いつも落ち着いておられるのですね」
 綺麗な目。自分を尊敬してくれているらしい。
 だが。
「私は、それほど強くはない。だが……」
 そっと手を伸ばし、その頭をなでる。
「お師匠……」
 彼の頬が、薄紅色に染まる。
 手をゆっくりと動かしながら、晴明は告げた。
「――お前が、共にいてくれるから。お前を必ず守りたいと思えるから、私は強くなれる」
 大切な泰明が、傍にいてくれる。だから、何があっても乗り越えられると思うのだ。
 目を見開く彼。だが、ほどなくして小さな声が聞こえて来た。
「――お師匠の傍で、私も強くなりたいと思います」
 確かな強さを感じられる声。この気持ちを、受け止めてくれたようだ。
「……泰明」
 頭に載せていた手をどけ、その身体へと伸ばす。
 そして晴明は、泰明を抱きしめた。


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