よゆ 夕刻。晴明は、庵の戸に背が見えるように潜んでいた。待ち人が、訪れるはずだ。 「……泰明」 ほどなくして、目に彼を映せた。一日努めて、疲労しているように思う。 「お師匠。一日の務めは、失策しておりません」 澄んだ目を、覗き込む。やはり、努力したらしい。少し驚いたようにも見えるが、晴明を拒む様子はなく知ら せてくれた。 「ありがとう。では」 礼を言葉に変え、泰明に踵を見せる。 「――お師匠?」 「挨拶は、違うところで伝えよう。私と、歩いてくれるか?」 今日は、少し違うことに挑戦しようと思う。場所を、移したい。承知して、くれるだろうか。庵ではなく、庭の 傍を選んだのも場所を移しやすいと思ったことに始まる。 「分かりました」 彼は、頷く。晴明は泰明と並び、一歩踏み込んだ。 ほどなくして、花の咲き誇る庭がふたりを包む。彼も、言葉で表現せずとも嬉しそうに見えた。安らぎをくれ る、静寂。そっと、一面の花を愛でる。晴明は、静かに伝える。 「花を愛で、泰明の傍にいられると幸せだ」 美しさに、囲まれるとき。ずっと、見つめたいと思う。泰明の傍で、語る。庵も安らげる。だが、花の美しさ も捨てられない。今日は、庭を選んだ。 「――ありがとう、ございます」 彼は惑った。並んでいると、分かる。俯き、そっと述べてくれた。頬は、薄く灯っている。 美しい花を、愛でよう。泰明の髪に、手を添える。ゆっくりと、左右に振った。彼も、俯くことはやめ晴明を 見る。 「泰明、お帰り」 静けさを嬉しく思いつつ、述べる。普段とは違う挨拶。惑わずに、いてくれると幸せだ。 「今、戻りました」 そして。彼も、微笑して頷いた。 |
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